Opinion : 要らんフカシばかりするイラン (2006/4/10)
 

世間的には、最近になって急に話題になっている「イランの核開発疑惑」だが、この件について業界筋では何年も前から、いろいろいわれていた。

基本的には、例の困ったパキスタン人・A.Q.Kahn 博士のネットワークを通じて遠心分離器を入手 (これにも P-1 と P-2 の 2 種類があって面倒くさいのだけれど、その話はパス)、それを使ってウラン濃縮を行い、最終的には核爆弾をこしらえようという定石ルートと推察される。
そもそも、イランの核開発が "平和的" という戯言を本気で信じている人は、少なくともまともな脳味噌の持ち主には存在しないだろう。IAEA に提出された報告書でも「これは軍用だ」と結論づけられている。それに対してアメリカは強硬姿勢だし、ロシアや中国はイラン・コネクションがあるから微妙な立場だし、仲介役として協議に入っている英仏独あたりも妙な立場。

そんな中で、イランは核関連のニュースと並んで「国産兵器を開発したぞニュース」の大量発生源でもある。その数だけなら、兵器開発に血道を上げている中国ともタイマン勝負ができるぐらいだ。


ちょうど最近、ペルシア湾で革命防衛隊が大規模な演習をやったようで、それに合わせて「レーダーで探知できない、同時多目標攻撃が可能な弾道ミサイルを開発した」だの「水中を秒速 100m で突っ走る、探知も迎撃も不可能な対艦水中ミサイルを開発した」だの「ステルス性を備えた "空飛ぶ船" を開発した」だのと、毎日のようにニュースを発信。

実は、新聞・TV で取り上げられていないだけで、以前からミサイルや航空機、AFV などを「国産開発したぞ」というニュースは頻繁に出てきていた。一体全体、そんなにいろいろ開発してどおすんの、と突っ込みを入れたくなるぐらい。

イランのように外交的に微妙な立場にある国が、この手のニュースをバンバン流すのは、対外的示威、特に最近では核施設に対する武力行使や対イラン経済制裁といった動きを牽制する狙いがあると見て間違いない。これは誰でも分かる。

ただ、この手のニュースは実際に牽制効果が上がらないと、ただのネタで終わってしまう。どうも、イランから出てくるニュースを見ていると、そこのところを理解していないように思えてならない。

「新兵器を開発した」とか「新型ミサイルを試射した」とかいう類のニュースは、それが「あの国は強力な兵器を持っているらしいぞ」という受け止め方につながり、結果として抑止効果を発揮してこそ意味がある。だから、相手が本気にしてくれるような話を出さないと意味がないし、本気にされるだけのバックグラウンドがあると思ってもらわないと意味がなくなる。

たとえば「核ミサイル」であれば、公認核保有国である米露英仏中が流した情報は、まず信頼される。それは、これらの国が過去に長いこと、核弾頭装備の弾道ミサイルを開発・配備してきた実績があればこそ。イスラエルにしても、「核兵器を持っている」という疑惑が限りなく黒に近いグレーになっているのは、「あの国なら核兵器を作れるだろう」と誰もが考えているから。

裏を返せば、そういうバックグラウンドがないのに「核搭載可能な弾道ミサイルを開発した」とか何とか吹いても、下手をすると「ネタじゃないの ?」といわれてしまうということ。さすがにインド・パキスタンあたりであれば、こんないわれ方はしない。けれども、フセイン政権時代のイラクなんかは、どちらかというと疑いの目で見られていた気がある。

もっとも、アメリカでも弾道弾迎撃ミサイルなんかになると、(どちらかというと願望が入って) あんなのイカサマじゃないのとか何とか言い立てる人が出てくる。それでも、「MD」というカードがある限り、アメリカと対立する因子を持っている国はそのことを気にする必要があるわけで、だから中国や北朝鮮はことあるごとに MD の悪口をいう。それだからこそ、日本が「MD カード」を持つことにも価値が出てくる。


では、最近のイランについてはどうか。

ただの弾道ミサイルぐらいなら、スカッドを入手してイラン・イラク戦争で撃っていたし、北朝鮮や中国、ロシアとのコネクションもあるから、まあ本気にしてもらえる。だが、「回避不能な多弾頭ミサイル」あたりになると、ちょっと怪しくなってくる。

ましてや、例の「秒速 100m の水中ミサイル」。確かに、ロシアにはスーパーキャビテーションを利用して水中を爆走するロケット魚雷・VA-111 Shkval というものがあったし、イランにはロシアン・コネクションがある。実際、イランのニュースを聞いたときに Shkval を真っ先に連想した人が多い。

ただ、その Shkval は射程が 6-10km と短く、スピードが速すぎるせいでソナーによる誘導も困難、直線番長で突っ走って核弾頭を破裂させることで、ターゲットを破壊する効果を期待する… そんな代物であったらしい。
つまり、実用的な兵器足りうるには核弾頭とワンセットである必要があり、通常弾頭では難しい。命中精度の怪しさと射程の短さがあるから、至近距離まで潜水艦で忍び寄れた場合以外は、よほどの僥倖に恵まれなければ効果を期待できない。

となると、そんなミサイルの存在を吹聴したところで、何も知らない一般市民は騙せても、専門家相手では逆効果。というよりギャグ効果になりかねない。

ましてや、「空飛ぶ船」に至っては、もう。
現物の映像を見ると、どこかの大学の研究室が実験目的で作ったものと同レベルじゃない ? と突っ込みたくなるような「ステルス性を備えた空飛ぶ船」であった。震洋みたいに、頭部に炸薬を仕込んでいて体当たりするのだろうか。にしても、プロペラ推進のノロマな飛翔体が、軍艦相手に簡単に忍び寄れるものだろうか。商船相手の嫌がらせなら話は違うが。

なにせイランなんだから、「空飛ぶ絨毯を開発した」とやった方が、まだ信用されたというものだろう。(そこまでいうか)

もっとも、日本の御近所でも「ソニー・ホンダに追いついた」と豪語した挙げ句にアニメ GIF でコケにされた「先行者」という事例がありましたがね。


兵器のテスト、あるいは実用化といった話は、公にする方が抑止効果がある場合と、曖昧にする方が抑止効果がある場合がある。どちらを選択するかは状況次第だが、選択を間違えると抑止効果がなくなる。

核兵器と弾道ミサイルの組み合わせは、相互確証破壊の理論があることでもあり、公にすることで抑止効果を発揮させるという考えが (少なくとも超大国の間では) 確立している。
逆に、イスラエルの場合には公認で核兵器を持てない立場にあるから、「持ってるのは間違いないと思うが、確定していない」というグレーゾーンの状況が、もっとも適している。公に認めてしまうと、それに対抗する側も公式に対応できてしまうことになるので、むしろ具合が悪い。(だから、核兵器保有を公言した北朝鮮は大失敗したと思う)

帝国海軍は、「この艦の存在を知れば、アメリカは必ず、もっと強力な戦艦を造る」という考えの下、大和・武蔵の存在を秘匿した。が、そもそもの国力が違いすぎた上に自分から戦争を仕掛けてしまったので、抑止効果にはならなかった。多分、大戦後半の圧倒的な戦力差を考えると、存在を公知にしていても同じことだったろう。

イランの場合、相手に信用させるだけのバックグラウンドを欠いた状態で、威勢のいいネタばかり量産しているものだから、却って「フカシ」と受け取られている節がある。どうせなら、ミサイルだの「空飛ぶ船」だのよりも、「ホルムズ海峡を機雷封鎖する」とぶちかます方が効果的だったのではないか。

なに、イランが機雷戦能力を持っているのか、なんて心配する必要はない。機雷敷設はそんなに難しい装備がなくてもできるから、イランあたりでも比較的、実現できる可能性がある。と専門家が考える可能性は高い。
そもそも、本物の機雷を敷設する必要すら存在しない。「機雷原を作って封鎖した」と記者会見するだけで OK。

そうすれば、石油相場は事の真偽を確かめないパニック的狼狽買いによって急上昇、世界経済に打撃を与えられる。古来、相場というものが冷静だったためしはないのだから。そっちの方が、よほどイランの言い分をごり押しできるんじゃないですかネ。

関連記事 :
何でも見せればいいというものではありません (2005/2/14)

Contents
HOME
Works
Diary
Defence News
Opinion
About

| 記事一覧に戻る | HOME に戻る |