Opinion : 飛び道具だけでは先制攻撃できない (2007/2/19)
 

blog の方で書いた話題について、もうちょっと掘り下げて書いてみようと思った。

EP-3 を「電子戦機」という看板でジャミング機と勘違いした疑惑だけなら笑っていられるけれども、もうすぐデリバリーされて小牧配備となる KC-767、JDAM の導入、海自の輸送艦「おおすみ」級の導入など、なにかにつけて「海外派兵の手段を増強している」「先制攻撃能力を増強している」と目の敵にされる話がいろいろある。

「おおすみ」級なんか、導入してからずいぶん経つけれども、実際にアレを使ってどこかを "侵略" したことなんてあったっけか ? え ? 日本が攻撃的な空母を持つための布石 ? そんなことをいっていた国がどこかにあったけれども、"攻撃空母" の計画なんて存在しない。16DDH はいわゆる豪華版ヘリ護衛艦であって (以下略)

といったところでよくよく考えてみると、槍玉に挙がるのは「飛び道具」の話ばかり。実際には、飛び道具だけあっても「先制攻撃」も「海外派兵」も成り立たないのに。


つまり、「護りを固めずに何が攻撃かと (2006/10/16)」でも書いたように、ターゲットに関する情報を得る手段がなければ、どんな飛び道具も先制攻撃の役には立たないということ。"shooter" は "sensor" からの適切なデータ提供があって、いつ、どこで、なにを、どうやって叩けばいいかを確定できないと役に立たないのに、その "shooter" だけを対象にして「先制攻撃」と騒ぐ時点で大間違い。

誤解されないように先に書いておくと、日本が整備を進めている情報収集衛星はリアルタイム監視の役に立たない。仮想敵国に対して定期的に観測する際には重要な存在だし、威力を発揮する。でも、出たり消えたり移動したりするターゲットの情報をリアルタイムで取るのは極めて困難。
具体例を挙げれば、「北朝鮮の核施設にどんな変化が生じたか」という情報は取れても、「ノドンの移動式発射器がどこに出現したか or どこからどこに移動しているか」という情報は取れない。たまたま上空に居合わせて、連続写真でも撮らない限りは。(それとて、撮った写真をリアルタイムで受け取れないと意味ないし)

昔は、偵察機というとフィルム式カメラを内蔵したりポッド式にして吊り下げたりして出動、帰還すると大急ぎでフィルムをひっぱり出して現像、まだ濡れている印画紙を見た分析担当者が「これは○○であります !」と大声で報告する… そんな場面が戦記モノなんかによく出てきたけれど、当節ではそんな悠長なことはやっていられない。偵察ポッドにデジカメを積んで、撮影したデータはデータリンク経由でリアルタイム伝送するのが当たり前になりつつある。

もちろん、遠方の見通し線圏外からデータを受け取るためには通信中継機能、あるいは衛星通信の機能が必要だろうし、そうなると高速かつ秘話性を備えた無線データ伝送技術の開発が必要、秘話性実現のために暗号技術が必要、溜め込んだ大量の画像データにアクセスして分類・検索する技術も必要、ひょっとするとメタ言語だとかメタサーチだとか、そんな方面まで話が発展することになるかもしれない。そういう機能が「飛び道具」とワンセットになってインテグレーションされた時点で、初めて「敵地に対する先制攻撃能力」といえるんじゃないかと。

まとめると、「『矛と盾』を兼備した攻撃軍へと脱皮するという魂胆です」と書いた杉さまは、"shooter" のことしか念頭になくて、"sensor" だとか、それを含めた C4ISR 分野の話がすっぽり抜け落ちてるよ、ということ。せっかく、C4ISR インフラの片隅を構成する「タフブック」に目をつけたのに、惜しい (笑)
実のところ、アメリカが他国と比べてもっとも進んでいるのは C4ISR 分野の話なのだけれど、そういう話は地味すぎて新聞・TV・雑誌のネタになりにくい。だから知らない人が多いのも無理からぬところではあるけれど。

そういう意味で面白かったのが、最近読んだ「軍事システムエンジニアリング」という本。個別のウェポン・システムをネタにした「○○ってすげー」的な内容とは、どえらくかけ離れた地味な書籍。だけど、ウェポン・システムの開発だとか、そこで関わってくるプロジェクト管理や System of Systems という概念、はたまた RMA や Transformation といった流行語に付随するさまざまな言葉の意味・位置づけまで、なかなか勉強になる本だった。といっても、まだよく理解できていない話も多いのだけれど (恥)

「海外派兵」だって同じこと。実際にはそんなことを考えていないだろうけれど、仮に日本が軍事力で持ってどこかの土地を分捕ろうとしたら、そこに部隊を送り込む作戦計画や戦力、輸送力の整備だけじゃなくて、目標地域に関する兵用地誌の収集、政治・経済・文化などの情報収集や、その他の準備作業が必要。昔、海岸線の輪郭以外は単に「密林」とだけ書いた地図で戦争しに行ったこともあったけれど、それが (準備不足のせいだけではないにしても) どういう結果に終わったかはいわずもがな。


だいたい、戦争に限らずビジネスの話でも同じでしょ ?

たとえば、自動車メーカーがおカネのかかった高い車を作っただけで「高級車ビジネス」が成り立つわけじゃないでしょ ? 製品コンセプトの策定からネーミング、値付け、店舗の展開や演出、営業担当者の教育、その他の販売戦略に至るまで、いろいろな要素が全部揃って調和して、それで初めてビジネスを始められるでしょ ?
それでもまだ、成功すると保障されたわけじゃなくて、ブツを売り出した後にもいろいろと、工夫や製品改良などを重ねていかないとならない。トヨタが、日本でレクサスを定着させるのに苦労しているように。

これに限らず、どんな商品やサービスでも、モノの良し悪しだけじゃなくて、ターゲットとなる顧客層の設定や、それを反映させた販売戦略が大事でしょ ? ここでも、(実際にはそういう言葉遣いはしないけれども) "shooter" だけじゃなくて "sensor" 要素が重要な役割を負っているということ。

そこのところを分かっていないと、「うちの製品の方が技術的に優れているのに (以下略)」みたいな泣き言をいう人が出てくる。飛び道具だけで戦争できると思っている人と、なんだか共通するものを感じる。

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