Opinion : MD にケチつけるのも大変だ (2008/1/28)
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最初は別ネタで書いていたのだけれど、あまりにも面白い記事が出てきたのでネタ替え。
http://mainichi.jp/select/seiji/news/20080127k0000m010081000c.html
Q いきなり町中の広場にミサイル発射機が現れたら驚くね。
いきなり街中にミサイルが降ってきたら、もっと驚くわい !
飛来する弾道ミサイルを撃ち落として防衛する、という大義名分にはさすがにケチをつけづらいと見たのか、どうもここのところ、MD 反対派には無理無理な理屈を持ち出す人が多いように思える。以下の内容、過去に書いた話とダブる部分も多いけれど、そこのところは御容赦を。
あの杉原 "タフブック" 浩司氏を引き合いに出すまでもなく、MD (Mini Disc や Make Directory ではなくて Missile Defense の方) に対して批判的な態度をとる人がいる。それは個人の思想の自由だから一向に構わないけれども、某アルファブロガー (笑) みたいに某夕刊紙の与太記事を真に受けてしまったり、上に挙げた記事みたいに本筋から外れまくった Q&A を載せたりするのでは、却って反対運動の足を引っ張るだけじゃなかろうか。
これが以前だと「飛来する弾道ミサイルにミサイルをぶつけて撃ち落とすなんて、そもそも無理だろ」という主張が多かったけれども、ここのところ PAC-3 も SM-3 も熟成が進んで要撃試験の成功が相次いでいるし、先日には海自のイージス護衛艦も JFTM-1 で要撃に成功して見せた。こうなると「当たらない」という主張はしにくくなる。
そのせいか、別の筋から叩こうと工夫するようになった模様。「街中にミサイル発射器が現れたら驚くね」は笑い話以前のレベルだけれども、噴飯モノだったのが「MD にかける費用があったらワーキングプアに配れ」ってやつ。いや、ワーキングプア対策にカネを使えというだけならともかく、単に「配れ」といっちゃうところがもう、救いようがないくらいダメダメ。自分だったらせめて「ワーキングプアに対するスキルアップ教育に使え」というところ。
単にカネをばらまいたところで一過性のもので、後に何も残らない。使ってしまったらそれでおしまい。国費を使って何かするのであれば、継続的に稼げる状況を作る助けにしましょう、という方が正しいカネの使い方なのでは。ばらまいて終わりという点では、過去に「地域振興券」という悪しき失敗例があるというのに。
そこまで思いが至らないで「カネを配れ」というウケ狙いに走ってしまうところが、「とりあえず政府のすることは叩いとけ」的な人の限界なのかなと思った。
カネがらみでは、「導入後も継続的に改良を続けていかなければならないから、またカネがかかる」というのもある。Spiral Development って言葉を知らなければ、導入したものはそのままの状態で使い続けられると勘違いしても仕方ないけれど、いまどきのウェポンシステムは導入後も継続的に改良を続けるもので、なにも MD に限ったことではありません。以上。
あと、ありがちなのが「PAC-3 の射程は短いから、護れる範囲は限られていて役に立たない」ってやつ。冒頭でリンクした記事にも、それに近い記述がある。この辺の話は以前にも、「PAC-3 の存在意義を再確認」で書いたけれど。
しつこく繰り返すならば、PAC-3 はポイント ディフェンスとエリア ディフェンスのうち前者に属するのであって、エリア ディフェンス担当の SM-3 が撃ち漏らしたターゲットが、国内の重要施設に着弾する事態を防ぐためのもの。だから、「最後の防壁」としては、SAM を大型化して射程を稼ぐよりも、射程を犠牲にして小型化する代わりに弾の数を増やして要撃確率を上げる PAC-3 のアプローチは正しい。
なぜなら、MD というのは最初から単一のレイヤーでは防ぎきれないことを前提にしていて、多層防禦によって (私はやったことないけど) 十二単を脱がすようにしながら、敵の攻撃手段を少しずつ剥ぎ取っていくものだから。だから、レイヤーによってそれぞれ、重視すべきポイントが違っていてもおかしくない。
そもそも、「護れる範囲が限られているから要らない」「阻止率が 100% じゃないから要らない」というのは、過去に何回も取り上げている all or nothing 思考の典型であって、「多少なりとも護れるのであれば、ないよりマシ」というべきなのでは。
また、冒頭の記事にある「都心に展開するのに時間がかかって役に立たない」は、都心に展開場所を探すのを批判する記事としては自爆もいいところ。展開に時間がかかるのであれば、迅速に展開できるように対策するのが正しいアプローチであって、「都心に展開場所を求めるのは怪しからん」と「都心に展開させるのに時間がかかるから役に立たない」を並べて、変だとは思わなかったんだろうか。
現状で日本の MD が抱えている課題を挙げるとすれば、こんなところじゃないだろうか。
米軍が持つ早期警戒システムとの、円滑なデータ受け渡しと指揮管制の体制構築・強化、交戦規則などの整備・改善
「弾道ミサイル発射の兆候」をいち早くつかむための情報収集・分析体制作り
PAC-3 やイージス護衛艦に対するフォース プロテクションの強化
特に PAC-3 の場合には、「発射の兆候」をつかんで展開しようとしたときの妨害対策 (デモ行進、座り込みなど)
MD がらみでは逆に、「対抗して、日本も核武装しろ」とかいうムチャクチャを主張する人がいて、これはこれで困ったもの。核武装するためにかかる currency の面のコストと、それ以外のコスト (政治的代価とか) を考えただけでも、どうにも引き合わないのは明白。しかも、どこでテストするんだとか、運搬手段はどうするんだとか、法的な位置付けや保安対策はどうするんだとか、物理的なハードルも掃いて捨てるほどあるというのに。
かといって、何もしないで「話し合いで解決を」とか「9 条で解決を」とか「無防備で解決を」とかいうのはギャグにもならないのであって、現実的な落としどころとしては MD しかないというのが個人的な意見。これとて完璧ではないし、特に C4ISR の分野では課題山積だけれども、他の対策よりはクリアすべきハードルが低いと思うから。
え、「MD 導入で日米の軍事的一体化が進み、集団的自衛権が云々」?
集団的自衛権を放棄する代わりに無防備でフルボッコにされるのと、日米同盟を堅持する代わりにフルボッコにされる事態を多少なりとも緩和するのと、どっちがマシかといえば、私は後者だと思うけれど。
重要なのは、日本という国家と、そこに暮らす国民が、このカオスと化した世界の中で生き残っていくこと。そのためには、アメリカの世界戦略を取り込んで利用するのが、少なくとも現時点ではもっとも無難で賢明な対策だと思うけれど ? 非武装中立の平和を維持するためなら殉死してもいい、なんて思っている国民は、どちらかというと少数派ではなかろうか。
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