Opinion : シーパワーとランドパワーに関する徒然の続き (2009/3/30)
 

先週の記事 を書いたら、予想外の反響 (当社比) があって、何人かの方と「シーパワーとランドパワー」に関するやりとりをする機会があった。そこで、いくらかハッキリしてきた部分もあったので、先週の続きということで。参考になるやりとりの機会を提供してくださった皆様に、まずはこの場を借りて感謝。


まず、ランドパワー国とシーパワー国では、そもそもモノの考え方が違うんじゃないかということ。つまり、ランドパワー国というのは「土地・資源・人を多く押えてナンボ」という性質がある。そこから派生して、「自国の安寧を確保するために、周辺にできるだけ多くの緩衝地帯を確保する」という考え方も出てくる。

どうしてそういうことになるかといえば、周辺諸国と地続きになっていると、(スイスみたいに) 急峻な山岳地帯で隔てられているのでもない限りは、比較的容易に攻め込まれてしまう。それを防ぎ、かつ国力を維持していくには、人・資源・土地をできるだけ多く確保することが必要、という発想になりやすいのではないかと。ゲームの話で恐縮だけれど、「信長の野望」なんかは、まさにそういうノリ。

では、シーパワー国はどうかというと、そもそも海によって他国と隔てられていること自体、もう緩衝地帯を抱えているようなもの。たとえそれがドーバー海峡程度のものであっても、あるのとないのとでは大違い。一方、その海が貿易などを支える生命線になるので、先週にも書いた、海洋利用の自由という発想が重要になってくる。

ただ、そこでランドパワーと違うのは、必ずしも海の領有を宣言する必要はなくて、自由に、かつ安全に通航できる公海があれば、目的は達せられる。ただし、大洋の場合には問題ないけれども、どうしてもそこを通らなければならず、かつ狭隘で制圧されやすいチョーク ポイントがある場合には、そこを自由に通航できるようにしておく必要がある。ホルムズ海峡とか、マラッカ海峡とか、アデン湾とかいうのは、その一例。

面白いことに、ランドパワー国というのは多くの場合、大洋に面しておらず、外洋に出て行くためにはチョーク ポイントを突破しなければならない。ソ聯しかり、第二次大戦中のドイツしかり、今の中国しかり。(ただ、インドをランドパワー国と認定すると、これは事情が違うけれど)

すると、そこでランドパワー国とシーパワー国の衝突が発生して、ランドパワー国が「外洋海軍建設」を目指す動機ができる。そこで問題なのは、その「外洋海軍建設」の中身、あるいはドクトリン (米海軍では CONOPS っていうんだっけ ?)。

つまり、シーパワー国と同様に、遠方まで進出して海洋利用の自由を護り、それを邪魔する敵を排除できるような海軍の建設を目指すのか。それとも、チョーク ポイントを押えているシーパワー国との対決を念頭に置いた、チョーク ポイントを制圧・突破するための海軍の建設を目指すのか、という話。後者の場合、自国に対する海上からの攻撃を防ぐという沿岸防衛海軍の発想が攻守ところを変えて、「攻勢重視のおっきな沿岸防衛海軍」になりはしないだろうかと、そんなことを考えた次第。

そうすると、中国が台湾にこだわる理由が透けて見える。台湾が中国のものなら、いわゆる第一列島線に風穴があくことになるから。それと、自国の分裂を恐れる観点から「台湾は俺のものだから、反旗を翻したら武力行使も辞さない」→「その際に相手側に加勢してくるであろう、米海軍の空母戦闘群が邪魔」→「それに対抗するには空母が必要」という発想になっても不思議はないなあと。台湾のことだけ考えるならば、中国本土という不沈空母を活用する方が合理的じゃないかと思えるけれど、「○○に対抗するには、こちらも同じ○○が必要」と考えるのは、よくあること。

ひょっとすると、韓国が対馬を自国領だと主張することがある背景にも、対馬によって発生しているチョーク ポイントを無力化する狙いが ? 実際には朝鮮海峡側で自由に行き来できるわけだけれど、対馬の存在によって韓国海軍が東西に分断されているように見えるのは事実だし、韓国の大きな港が東岸に幾つもあるし。

それはそれとして。
ランドパワー的発想でシーパワーを運用しようとすると、すごい勘違いをやらかす可能性がある。つまり、海洋利用の自由という観点の下で公海の自由通航を目指し、敵が現れた場合には優越を確保 & 重要なチョーク ポイントを押える、というのではなくて、むしろ「ここからここまでは俺の海」という発想になりはしないかなと、そんなことも考えてみた。

陸地ならともかく、広い海の上で適当に線を引いて「ここからここまでは俺の海」なんていったところで、そこをすべて自国の軍艦で埋め尽くすことなんてできないし、陸地じゃないから兵隊を置いて占領することもできないし、海にフェンスや塀を作って仕切るわけにもいかない。結局のところ、線を引いてもどこからか侵入されてしまう。実際、ある方が太平洋戦争における日本の絶対国防圏に言及されていて、深く納得してしまった。

それに、そんな陸式な発想では、自分がチョーク ポイントを突破する立場だったのが逆転して、突破を恐れる立場に回ってしまう。しかも、大洋の上に適当に線を引いたりした日には、どこでも自由に往来できる広い海が対象になるから、もうチョーク ポイントってレベルじゃねえぞ、ということになってしまう。

日本の絶対国防圏構想が破綻して、第 5・第 3 艦隊と第 7 艦隊の二方向から突き崩されたのも、むべなるかな。太平洋上に点在する島嶼を要塞化して、そこから航空機を飛ばして制圧しようとしても、距離が空きすぎていて相互支援もままならず、しかもリソース不足に足を引っ張られて各個撃破されたわけだし。

そういえば、ネタが小説っていうのがなんだけれど、トム・クランシーの「レッド・ストーム作戦発動」では、ソ聯がいったんはアイスランドを制圧したものの、増援もままならず、最終的に孤立無援の状態になって奪還されていたっけか。

その点、ソ聯海軍の SSBN が白海やオホーツク海を要塞化して立てこもるのは、もともと自分が確保しているチョーク ポイントの内側に陣取るわけだから納得できる。そういう環境なら、「チョーク ポイントの内側は俺の海」で通用するし。その点、黒海やバルト海は具合が良くない。


ということは、ランドパワー国が外洋海軍を目指して失敗する事例が多いのは、

  • 外洋海軍 (のようなもの) を作って大洋に押し出した瞬間に立場が逆転して、自分が引いた線を突破される、あるいは各個撃破されることを恐れる立場になる
  • そして、護るべきものと、そのために必要な資産が増えすぎて収拾がつかなくなる
  • かつ、ランドパワー国にありがちな地理的制約・リソースの制約によって資産不足になり
  • 結果として自滅状態になるから
なんだろうか ?

しかし、常に上で書いたような陸式海軍になるかどうかは分からないし。ううむ、ますます頭が混乱してきたような。逆に、シーパワー国が陸地の制圧に乗り出して、辛うじて点と線だけ押えた場合には、陸式海軍の反対 (海式陸軍 ?) っていうことになるんだろうか。しかし、砂漠なんかではそうならざるを得ない。

となると、単に「シーパワーだから」「ランドパワーだから」ではなくて、もうちょっと細かく分けた事例ごとの考察が必要みたい。

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