Opinion : 災害派遣と軍隊の関わりに関する補遺 (2010/1/25)
 

ずいぶん前に、「人道支援に軍隊が不可欠な理由」という記事を書いた。

そこで書いたことを全面否定するつもりはないのだけれど、先日、blog でのやりとりの中で「被災地支援を標榜して軍を整備すると、てっぽ持っているよりお金がかかりそうな気がしますね」というコメントを頂戴したので、「それもそうだよなあ」と。

それで、補遺という形でもう少し考えてみようかと思った次第。


「インフラが整っていなくても動けるだけの装備を備えている」「訓練が行き届いた人手が揃っている」「場合によっては治安が悪化する可能性もあるので、そういうときに重要」とかいった理由があるので、災害派遣を初めとする人道支援任務で軍隊が有用、という話を否定する理由は存在しない。

聞くところによると、ハイチにおける震災で「米軍は、これを機会に軍を送り込んでハイチを占領しようとしている」なんて寝言をいっている人がどこかにいるそうだけれど、そんな火事場泥棒みたいな真似をしたら政治的大失策になるのは明白。わざわざ、そんなことをする理由も意味もない。単に、災害派遣でアメリカのイメージが上がるのを嫌っているために発せられたコメントだろう、と切り捨てておく。

ただ、こういう言い方をすると物言いがつくかも知れないけれども、あくまで災害派遣や人道支援は軍隊の特質を活用した「余技」。自然災害、あるいは人災から国民を護るという意味では広義の自衛であるにしても、本来任務をそっちのけにして、あるいは本来任務に支障をきたすようになってまで、この手の MOOTW (Military Operations other than War) にのめり込むのはどうかと思う。

アフガニスタンにおける PRT (Provincial Reconstruction Team) の話と似たところがあって、「餅は餅屋」というか、「軍隊でないとできない仕事」「軍隊の方がうまくやれる仕事」「軍隊以外の誰かさんの方がうまくやれる仕事」「軍隊以外の誰かさんでないとできない仕事」という分類は必要じゃないかと。

ただ、被災直後の混乱場面では軍隊がもっとも効率よく動けるのは確かだろうから、最初に軍を派遣して当座に必要なタスクをこなし、その後で軍以外の文民機構、非政府組織、あるいは民間企業に仕事を回していく、というアプローチは考えられないかなと思った次第。

たとえば、ハイチで問題になっている飛行場のキャパ不足とか、被災者を収容するためのキャンプや建物を急増するとかいう話になったら、たとえばの話、過剰請求事件でミソをつけた某社みたいな会社でも結構役に立つんじゃないの、という話。

物資の輸送にしてもしかりで、飛行場の整備状態が悪い、港が使えない、とかいう場面では軍用輸送機や揚陸艦の方が都合がいいだろうけれど、いったんインフラが使える状態になれば、民間の輸送機や輸送船にも出番がめぐってくるかも知れない。民間企業に勝手にやらせるのでは具合が悪いだろうから、普段から政府と契約しておいて有事の際に呼び出しをかける体制を作っておくとか。(といっても、それによって穴があく民間向けの仕事をどう埋める、という問題は残るけれど)


ちょっと意地の悪い書き方をすると、「災害派遣にも役立ちます」という触れ込みは、装備調達に必要な予算を財務当局に認めさせる際に効果的、という一面があると思う。それはそれで否定しないけれども、だからといって、軍事組織が MOOTW にばかり力を入れるのも (あるいは、政府が力を入れさせるのも) どうかと思う。上の方でも書いた「軍隊でないとできない仕事」と「軍隊の方がうまくやれる仕事」は、イコールではないから。

もっとも、逆もまた真なりで、軍の仕事を何でもかんでも民間委託してしまうと、これまた問題がある。1990 年代から顕在化してきた民営化の動きについては、2000 年代に入ってからいろいろと問題点も明らかになってきており、特に武器を使う警備業務についてはその傾向が強い。これは近い将来に揺り戻しが発生するかも知れない。

それと同じように、「軍を使うと具合がいいから」といって手当たり次第に軍の任務に付け加えてしまい、一方で人的・資金的リソースは大して増やさないとかいう間抜けなことになると、それはまずい。国防という本来業務がお留守になってしまいかねないわけだから。

要はバランス感覚の問題で、軍隊を "便利屋" にしちゃダメだと思うよ、というところに落ち着くのではないかと。

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