Opinion : 通常・日常なくして特殊・特別なし (2010/2/8)
 

2010 年版 QDR (Quadrennial Defense Review) に関連して、Lexington Institute の人が「ハイブリッド戦という概念は目新しいものではない」と批判している。

ここでいう「ハイブリッド戦」とは、かいつまんでいえば「正規戦」と「不正規戦」のハイブリッドという意味で、どちらか一方ではなく両方の性質を帯びている、両方の局面とも存在する、という意味。それに対して「そんな話は以前からあり、目新しいものではない」と批判している次第。

特に「911」以降、不正規戦とか特殊作戦とかいったものが重視される傾向にある。それを実現する手段として、特殊作戦部隊が重視されるのは分かるけれども、だからといって通常部隊を軽んじていいものかというと、それはどうかと。そういう意味で、Lexington Institute からの批判には首肯できるものがあると思った。


そもそも、特殊作戦部隊で勤まる人材をどこから供給するんだ、という話。

例外もあるにしろ、基本的に陸軍の特殊作戦部隊で勤まる人材の多くは、歩兵部隊や空挺部隊からやってくる。そして、それらは通常部隊に分類される。つまり、通常部隊で経験を積んだ兵士がいなければ、特殊作戦部隊に人材を供給できない。

それに、特殊作戦部隊だけで仕事ができるわけではなくて、敵地に侵入するなら輸送機やヘリコプターや輸送機や艦艇が要る。ときには空母からヘリで発進したり、潜水艦で潜入地点まで送り込んでもらったりする。強力な敵に遭遇すれば戦闘機や爆撃機や砲兵に支援してもらう。場合によっては、戦車隊の支援を仰ぐことだってあるかも知れない。

人材供給の面でも、実戦の面でも、通常部隊「だけ」でも、あるいは特殊作戦部隊「だけ」でも仕事はできなくて、結果的に諸兵科聯合みたいな状態になることが多いはず。だから、all or nothing で、どちらか一方だけを重視するのはバランスを欠くし、そもそもハイブリッドな状態が当たり前。となると、わざわざ「ハイブリッド戦」なんて概念を前面に押し出すのは疑問ではないか、という話になる。

個人的には、このハイブリッド戦云々という話、「特殊作戦、不正規戦ばかりではなくて、通常部隊、あるいは正規戦のことも気にかけてますよ」と納得させるための政治的エクスキューズではないか、と疑っている。

もちろん、そういうエクスキューズも軍政の見地からすると必要なのだけれど、それはあくまで「これはエクスキューズだ」と自覚した上での話。「日常」とか「通常」があった上での「特殊」なのだという前提を忘れてしまうと、落とし穴に落ちやしないかと心配になる今日この頃。

いいかえれば、「日常」とか「通常」がちゃんとしていないと、「特殊」「特別」なものも成立し得ないのではないかということ、


特殊作戦とか不正規戦とかいう物騒な話に限らず、これは一般市民の生活にも適用できる話かも知れない。たとえば、ずいぶん昔に「5% の非日常より、95% の日常」でも書いた話に通じるけれど、特別なイベントは平凡な日常生活があるからこそ成立するんじゃないの、といった具合で。

多分、平素からこういう考え方をしているから、「さよなら運転」とか「開業初日」みたいな現場に、あまり足を向けないのかも知れない。その手のイベントで人がワーッと集まり、盛り上がりの中で高揚感を感じる… そういう楽しみ方もあるとは思うけれど、自分はもっと日常的な気分を味わいたいと思う人。どちらが偉いとか優れているとかいう話じゃなくて、好みの問題で。

ただ、非日常的なイベントの中で高揚感を味わうに際しても、それは平々凡々たる日常があるからこそ成立する、ということは意識していて欲しいと思う。たとえば「さよなら運転」とか「引退興行」とかいう類のものは、それまで日々、コツコツと働いてきた人やモノだからこそ成立するものだろうから。

だから、交通機関でも施設でも何でも、普段は利用しないでおいて、いざなくなりそうになると「廃止は困る」とか「長いことありがとう」とかいいだすのは、どうもなあ、と思ってしまう次第。なくなって欲しくなければ、普段から使う努力をしてみてもいいんじゃないか、なくなるときだけ騒がないで欲しいんだけど、と。

といっても、特にローカル線廃止問題なんていうのは「鶏と卵の関係」みたいなところがあるので、程度問題であり、一概に「利用しない人が悪い」と決めつけることはできないけれど。

無理やり話を引っ張ると、これは「平和」とか「安全」とか「安定」とかいったものにも適用できる話かも知れませんぞ ? それらを維持するための日常を軽んじて、いざ、なくなりそうになったときに騒いでも知らんぞ、という意味で。

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