Opinion : 安全保障教育というより地政学教育 (2010/11/15)
 

尖閣諸島をめぐる一連の騒動で最大のダメージを受けたのは、「いわゆる平和運動家」の人たちかも知れない。彼らのいう通りにすると本当に平和になる、とは思えないので、わざわざ「いわゆる」とか「カギ括弧」とかいうものを付け加えているのだけれど、それはともかく。

少なくとも、「安全」とか「平和」とか「領土的整合性」とかいった類のものが、黙っているだけで、念じているだけで、自動的に天から降ってくるわけではない、という認識が広まるのは結構なことだと思う。けれども、どうも昨今に伝えられる話を見聞きしていると、話が反対の方向に振れすぎているような気がする。

たとえば、「尖閣諸島を占領されてはかなわないから、自衛隊を配備しろ」とかいう類の議論。自分が若い頃なら、「話し合いで解決を」と称える人が主流を占めたり、「護憲 vs 改憲」の議論に脱線したりしたものだろうけれど、「自衛隊配備の是非」について論じられるのだから、時代は変わったもんだと思う。

そういう方向に世間の風向きが変わっただけでも、「いわゆる平和運動家」の人たちが受けたダメージは大きいし、彼らのいうことに耳を傾ける人がガクッと減ってもおかしくなさそう。

おっと。
その「尖閣諸島に自衛隊を配備することの是非」については、以前に書いたから、ここでは繰り返さない。ただ、過去の戦史とか先例とかいったものについての知識があるのとないのとでは、受け止め方が違うのだなあという思いがある。


それで、「安全保障問題に関する教育」「軍事問題に関する教育」が必要なのかなあ、と考えたところで、これまた「ちょっと待てよ」と思った。
もちろん、安全保障問題における基本的な考え方であるとか、軍事問題に関する知識が身についているに越したことはないけれども、たとえばの話、誰もが兵器のスペックをそらんじる必要があるかといえば、それは違うんじゃないかと

見も蓋もないことを書いてしまえば、人類史≒戦争の歴史だから、「どういう戦争があったか」「それはどういう背景事情の下で起きたか」「そして、どういう経過をたどったか」「勝因は何か/敗因は何か」という事例が掃いて捨てるほど存在することになる。まずは、それらについて研究することが重要なのではないかと。

「前回に経験した戦争」に囚われてしまうのは、なにも国家や軍隊だけの話ではなくて、国民、なかんずく平和運動家でも同じこと。「戦争は悲惨だから止めましょう」とかなんとか連呼する人が持ち出す事例を見てみればいい。たいていは太平洋戦争中のそれだから。でも、それだけだと視野が狭すぎないか、と問題提起してみたい。

そこで、「過去の歴史における戦争について学ぶ」という話につながるという訳。なにも太平洋戦争だけが戦争ではない。(悲しい話だけれども) 人類史の中には掃いて捨てるほどの戦争の事例があるし、その中には現在でも通用する教訓を含んだものが少なくないと思う (通用しないものもあるだろうけど)。

そういう事例について、できるだけたくさん調べてみれば、自ずと「軍隊がなければ平和になる」とか「軍事に関連する物事を隠蔽しておけば平和になる」とか「憲法 9 条があれば平和になる」とか「金儲けのために戦争を焚きつける輩が云々」とかいう類の寝言が、真剣に相手にされることもなくなるのではないかと。もっとも、事前の思い込みが強すぎる人、結論先にありきで都合のいいネタだけを探す人は例外であるにしても。

そうやって歴史をひもといていくと、さらに今度は地政学についても知る必要が出てくるはず。そういった知識を持つことが、結果として安全保障問題について考える下地を作ると思う。兵器のスペックとか戦術とかいう類の話は、その後で必要になったときに調べればよろし。


歴史の勉強といっても、単に「○○年に△△という出来事があった」という話を延々と諳んじるだけでは、面白くも何ともない。その出来事の背景に何があって、当事者がどんなことを考えた結果としてその後の経過につながったのか。それを知るのが歴史の面白いところ。

地理の話もそうで、地形・地勢・産業・人口分布・資源分布などといった類の話を単体で覚えるだけでは、あまり面白くない。それと歴史や政治の話を絡めることで、俄然、面白くなってくるものだと思う。

ただ、この手の話って学校の先生が授業で取り上げるのは、ちと辛い話だと思う。だから、小学校や中学校ではなくて、少なくとも高校ないしはもっと後のレベルで、ある程度の土台ができてから取り上げる方がいいような気がする。ただでさえ、歴史教育というと特定の歴史解釈で児童・生徒を染め上げようと考える輩が多いのだし。

となると、実は大学の一般教養で取り上げるぐらいで、ちょうどいいのかも。

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