Opinion : ポエム的礼賛記事考 (2016/10/31)
 

以前に「たいていの分野は国産品を持ち上げておく方が読み手が喜ぶのに、クルマの世界だけは別」という話を書いた。もっとも、外車なら何でもいいというわけではなくて、実質的にはドイツ車・フランス車・イタリア車ぐらいだから「特定外車」か。

その外車の試乗記が典型例だし、Apple が新しい製品やサービスを発表したときもそうだけれど、ある種のポエムが氾濫することになる。書き手が対象に感情移入しすぎて、あの手この手で持ち上げてしまうというアレ。

商売で書いている以上、わざわざ読み手の御機嫌を損ねる… あるいは読み手が見たいと思っていない内容のモノを書いてもビジネスにならない。それに、下手をすると情報提供元の御機嫌まで損ねてしまうだろうから、仕方ない部分はある。

とはいえ、「なんとかして持ち上げるポイントを見つけて、書きたてないといけない」というプレッシャーは相当なモノだろうなあ、と他人事みたいに見ている。
(そういえば最近、自衛隊がらみのポエム記事も増えてきてないか ?)


では自分の場合にはどうか。たとえば、Lockheed Martin の記者会見で「F-35 で発覚した○○の不具合が、どこまで波及するのか」なんて質問をしても、可能な限りの答えはもらえるし、それで出入り禁止にされるわけでもない。存在しない製品に関するスットコドッコイな質問をしたとしても、たぶん同様。

誌面で何か書く場合でも、プラスの話を書いている一方で、不具合が発覚したときには、その話も書いている。少なくとも事実に即したマトモな内容であれば、不具合に関する話を書いたからといって、クレームがつくようなことはない。

それだからこの業界の仕事をしていられるわけだけど、どこの業界でも同じかどうかは知らない。最初に引き合いに出した Apple はどうなんだろう。
そういえば、芸能関係の雑誌で、「とことん、ネガティブな話は避けて通ってるなあ」と思ったケースがあったけれど、まあ、そこはその、うん。たぶん、そういうことなんだろう。

どんな企業でも団体でもお役所でも、「情報を提供したり取材の機会を作ったりするからには、できるだけいいことを書いて欲しい」と思うもの。でも、そこで「ネガティブなことを書く奴は出入り禁止」とやれば、却ってネガティブなイメージが定着してしまう。

だから普通は、ネガティブなことを書く相手でも、そうでない相手でも、同じように取材の機会は作る。故に、観艦式の取材社リストに「チャンネル桜」と「赤旗」が名を連ねるようなことも起きる。両者を同じフネにアサインすると、不穏な空気ぐらいは漂うかも知れないけど (?)

広報の仕事を煎じ詰めると、おそらく「自分とこの味方を増やす・理解者を増やす」となる。そこで「味方になってくれない」からといって刺々しい対応をすれば、後でブーメランになって返ってくるかも知れない。かといって、ポエムみたいな礼賛記事が増えても、長期的にプラスになる保障はない。

書き手の立場からすると、広報担当者がいろいろと頑張ってくれると、こちらも「じゃあ、それに応えようじゃないか」という気になる。もちろん、ありもしない話を捏造するとか、粉飾するとかいう意味ではなくて、あくまで「事実に即した上で冷静に」という範囲内でのこと。ポエムみたいな記事は気持ち悪いから書きたくない。


結局のところ、「読み手が喜ぶかどうか」「書き手による個人的思い入れの程度」「情報提供元による統制の度合」といった要因が絡み合って、それらの力関係やバランスによって落としどころが決まってくるんじゃないかと思う。

そこで「書き手による個人的思い入れの程度」が突出すると、些細なことでも褒め称えて悦に入る、ポエム化した原稿が出来上がるんじゃないだろうか。すると、「同じ内容のことなのに、A 社だと褒め称えて B 社だと叩く」という滑稽なことが起きる。

そんな状況にいると「褒め称えられる記事」しか受け入れられなくなって、結果的に広報の能力が弱体化するんじゃないか、と思うけれど、それはまた別の話。

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