Opinion : 在日米軍再編に関する戯言 (2005/10/31)
 

紆余曲折の結果、在日米軍の再編成に関する中間報告が出てきた。内容は至ってまっとうなもので、いまさら自分ごときが真剣に対案を考えるほどのこともない。だから、思いつくままに戯言をつらつらと。


在沖海兵隊の削減

まずは、もっとも目立つ象徴的な話題から。

沖縄の地政学的状況を考えると、ここに海兵隊のプレゼンスを維持することは、中国と北朝鮮の両方に睨みをきかせる役に立つ。ただ、政治的リスクということも考えなければいけないので、大規模な在沖海兵隊戦力を維持し続けることが政治的リスクになるのであれば、打ち手を変えなければならない。かといって、すべてを撤収してしまうのは間違った政治的シグナルになる。

今回の合意では第 III 海兵遠征軍 (III MEF) の司令部をグアムに移駐して半分近い人数を引き上げつつ、「沖縄に第三海兵師団を配備」という枠組みまでは崩していない。これは、地元負担と政治的リスクと軍事的プレゼンスのバランスを取る落としどころとしては、最善の妥協点ではないかと思える。

ただ、紛争地帯に急速展開するのが海兵隊の特徴である以上、何か「足」を確保する必要がある。特に、司令部と実働部隊が離れてしまった場合、これは重要。日本が高速輸送艦を用意するという話と今回の一件、実はワンセットなんだろうか ?
輸送艦の件については「TSL の救済策では ?」という推測も出ているようだけれど、あれは RoRo 船ではないので、軍隊輸送にはまったくもって不向きだしキャパシティ不足。改造するにしてもカネがかかりすぎる。

実働部隊の輸送手段としてなら、新日本海フェリーが使っているような民間用高速フェリーをベースにして、軍隊輸送には不要な接客設備をそぎ落としたものを作る方が、安上がりで使いやすいのでは。といっても、高速フェリーの船価でもっとも高い比率を占めるのは主機だそうだから、接客設備をケチっても、意外と値段は安くならないかも知れない。
ちなみに、「輸送艦から航空機を発着させる」と聞いて「すわ空母導入か」と舞い上がった人がいるようだけれど、海兵隊は戦闘機やヘリを発着させられる艦を自前で持っているのだから、これはヘリ、あるいは偵察用 UAV のことなのでは。

今回の案では実戦部隊をそのまま維持しているので、そこに噛みついている人もいる。となれば、見た目の上で実戦部隊を減らすトリックを使う手もあったかも知れない。
どういうことかというと、本土にいる部隊をジャングル戦訓練や自衛隊との合同演習といった名目で、順繰りに沖縄に TDY (Temporary Duty : 一時派遣任務) する。あとは、1 個海兵師団に相当する装備を事前集積しておけばいい。書類の上では沖縄配備になっていない部隊でも、実際にはいるも同然ということになる。しかし、これはやはりダマカシというべきか。


横須賀への原子力空母配備

以前に「どうなるキティ後継艦」でも書いたように、いずれ原子力空母以外の選択肢はなくなるのだから、現時点で通常動力の JFK を持ってきても問題の先送りにしかならない。そう考えると、もともと来るべきものであり、当然の帰結というべきか。

「地元感情を無視」とかいうけれども、過去に米海軍の原子力推進艦が原子炉事故に起因する放射能汚染をやらかしたことはないわけで、少なくともソ聯海軍の原潜より安全性は高い。多分、中国海軍の原潜と比べても同様。これについては、リッコーヴァー提督に感謝しなければなるまい。
もし、横須賀に原子力空母を配備するのが危険な行為だというなら、去年、先島諸島で領海侵犯した中国の原潜についても同じことをいわなければならないのだが、そちらについては何もいわないあたりに、「原子力空母反対派」の二枚舌ぶりが垣間見える。

それに、上記の記事でも書いたように、今の原子炉はいったん炉芯交換すれば 20 年かそこらは使えるのだから、横須賀で原子炉を開ける必要もない。というかそもそも、許可された関係者以外は原子炉室に入れないという米海軍の規定からして、日本で原子炉を開けることなど最初から考えていないはず。

ついでに書けば、どこぞの新聞が反対の論拠に挙げていた非核三原則は「核兵器」が対象であって、艦艇の主機は対象外。それも、正確にいえば核分裂や核融合を使用する兵器が対象なので、劣化ウラン弾も対象外といえるだろう。あれは、別に核分裂や核融合を起こすわけではないのだから。核兵器の搭載を云々するなら主機の種類は関係ないし、なんというか、反対する側の言い分はチグハグ。"原子力" と付くものが存在するのが嫌だということなのか、それとも某国の第五列による米軍戦力増強阻止工作か。


第 I 軍団司令部 (改め UEX) の座間移転

プレゼンスを示すという意味では、これも重要。無論、必要とあらば有事の際に進出してくるものだとしても、太平洋の向こう側 (ワシントン州 Fort Lewis) にいるのと日本にいるのとでは、極東地域におけるプレゼンスとしての意味合いは全然違う。
海兵隊の司令部を後方のグアムに引っ込める一方で、それと交替で陸軍の軍団司令部が進出してくることの意味は何だろう。

海兵隊は緊急展開が売り物の火消し部隊だが、陸軍はもっと腰を据えて長期的に大規模な作戦を行う場合が多い。となると、これは米軍が対中・対北朝鮮シフトを本格的にやるぞというサインだとみたのだが、どうだろう。(また、それが国会図書館裏や代々木の人にとっては気に入らないところだろう :-p)

とりあえず司令部だけ重要拠点に配置しておいて、有事の際に実働部隊を他の地域から "チョップ" するのは、もともと米軍が得意とする方法。そして、Fort Lewis にはストライカー旅団がいる。ハワイにもストライカー旅団を編成する話があるので、これは有事の際にストライカー旅団を送り込んでくるための下敷きだろうか ? とすると、基本的に歩兵主体の海兵隊よりは戦力強化になると思われる。

もうひとつのポイントは、陸自が新設する中央即応集団を、同じ座間に置くというところ。横田に共同統合運用調整所を設置する件と併せて、自衛隊と米軍の一体化が進むことになる。日米安保体制の下では一緒に動くことになるのだから、当然といえば当然の話。これがまた、国会図書館裏や代々木の人にとっては (以下略)。


18WG の訓練地拡大など

嘉手納 AB の 18WG に配備されている F-15 の訓練場所を日本本土に移転して、千歳などに展開させるという話があるらしい。これは、米空軍と空自の共同作戦を容易にするという観点から見て、かなり有利な材料と思われる。訓練や演習のために、平時からあちこちの基地に飛行機を飛ばしておくのは、現地の状況を把握したり、ノウハウを得たりするのに役立つ。
空自にとっても、微妙に装備内容が違う米空軍の F-15 に普段から触れておけば、イザというときにまごつかずに済むのでは。それに、現場の人間同士が顔をあわせる機会が増えるのもよい。

似たような話は、実は日常的に行われている。たとえば、先日の三沢 AB 基地祭に B-1B が登場したけれども、あれは何も、日本のヒコーキ好きを喜ばせようと思って飛ばしてきたわけではあるまい。それはあくまで副次的効果というもので、本来の目的が有事展開に備えた下調べだったとみるのが妥当では。

それに、いつでも三沢に B-1B を展開できるということを示すのも、一種のプレゼンス誇示といえる。場所を考えると、北朝鮮への圧力を意識した行動か。特に最近、米空軍のグローバル・パワー展開においては B-1B の重要性が増している。OIF (Operation Iraqi Freedom) でも、イラク上空に常駐して JDAM をばらまいていたのは B-1B だった。搭載量の多さと航続距離の長さは、ああいう使い方に適している。


日本の国益を考えると、あるいは日本が独自に大規模な軍事力を持つことの政治的・経済的リスクを考えると、日米安保体制の維持が最適な落としどころとなるのは確か。その上で、日本の防衛に必要なものとアメリカの世界戦略に合致する部分があるならば、日本にとって都合がいい形で米軍を取り込むことで、双方にとって最大の利益が得られる。

こういうことを書くと「憲法で禁じられている集団的安全保障が云々」ということをいう人が出てくるのはお約束だけれども、憲法を守るために日本が存在しているのではない。日本が政治的・経済的に生きていくことができなければ、憲法も何もあったものではない。日本が世界政治のパワーゲームの中で生き延びていくために何が必要か、という観点からの議論が、もっとオープンな形で必要ではないか。
身も蓋もないことを書いてしまえば、反対する人はどんな案が出てきても反対するんだから…

今のように、解釈をこねくり回すことで強引に辻褄合わせをする方法は、むしろ「解釈次第で何でもあり」というどこかの役所みたいな状況につながり、収拾がつかない状況になってしまう。有事法制でも何でもそうだけれども、起きては欲しくない事態についてもきちんと想定して、現実に即した法的枠組みをきちんと整備しておくことが必要ではないか。(参考 :「有事法制」議論の不毛)

そういう意味では、「自衛軍」とか「防衛省」とかいう看板の話より先に、やるべきことはナンボでもあるはず。看板さえ立派にすれば解決するという問題じゃないと思うぞ… 看板を変えるだけでは、単なる政治家の自己満足で終わってしまう。

それに、単独で強力な軍事力を持つのは独断専行のリスクを高めることになる。むしろ、集団的安全保障で「みんなで足並み揃えて」という方が、誰かが独走して暴発する危険性を減らせるのではないか。そもそも、「みんなで足並み揃えて」という考え方の方が、日本人の国民性に合っているように思えるのだけれど :-p

え ? 非武装中立という選択肢はないのかって ? あれは問題外のそのまた外。現在の世界情勢で非武装中立が成り立つのは、人類が足跡を記した場所の中では南極と月ぐらいのもんだと思う。

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