Opinion : 常識的思考は陰謀論に勝る (2007/7/23)
 

当コラムで過去に陰謀論について取り上げたのは、記憶にある限りでは以下の 2 本。

人はなぜ陰謀論にハマるのか (2006/11/6)
現実が自分の希望と一致しなくて不満に思っているとき、逃避して自己正当化を図る手段として陰謀論に飛びつく人が出る。

自作自演と尋問官と陰謀論と (2005/12/19)
自作自演は往々にして簡単にバレる。ましてや、多くの人が関わる大規模な陰謀を実現しようとしたら、口裏合わせが大変。それでも実現するような手の込んだ陰謀なら、簡単にバレるハズがない。

そんなわけで、いわゆる陰謀論については一貫して否定的な態度を取っているわけだけれども、それでも「世に陰謀論のタネは尽きまじ」。そこで今回はちょっと視点を変えて、陰謀論者に騙されないようにする方法について考えてみた。


といっても、何も難しいことはなくて、単に「正しい知識と常識的判断力があれば、大概の陰謀論は見破れる」というだけの話。ただ、これだけで終わっちゃうと何なので、具体例を引き合いに出してみたい。

【珍説】「911」で WTC が崩壊したのは、事前に破壊工作が施してあったから。
ジェット燃料の燃焼温度では 880 度ぐらいにしかならないが、鉄の溶融温度は約 1,500 度。だから、ジェット燃料の火災で鉄骨が破壊されたというのはウソで、あれは陰謀による破壊工作である。

んなわきゃーない。

すでにあちこちで指摘されていることだけれども、鉄骨が溶融して液体化する温度まで熱する必要性は皆無。溶融させなくても、熱せられれば強度は下がる。建物を設計するときには常温の状態で強度を計算するのだから、熱せられて強度が下がり、グンニャリした鉄骨が本来の構造を保てるはずもなく、崩壊しても何も不自然はない。

最初から炎にさらされるつもりで作ってあるガス台の五徳ならいざしらず、鉄骨造りの建物なら火災に遭っても形を維持できる保証はない。溶融温度に達しなければ崩壊するはずがないというのなら、戦時中に空襲に遭った日本の都市では、鉄骨造りの建物だけは形をとどめていなければおかしい。

溶融温度に達しなくても、高温にさらされれば本来の強度は維持できない、という点を無視しなければ、上記の陰謀論者の主張は成立しない。つまり、「溶融温度」を引き合いに出した時点で論理破綻しているというわけ。

さらにエスカレートすると、「衝突の瞬間にピカッと光るものが見えた」→「テルミットが仕掛けてあったに違いない」、さらにエスカレートして「小型の水爆」「きれいな水爆」なんていうスーパー珍説まで出現している様子。前述の論理破綻を取り繕おうとすると、こういうトンデモ理論が登場する。原爆を使わない「きれいな水爆」の構想は存在するものの、まだ開発中だというのに。

私は、きれいな水爆より、きれいなお姉さんの方が好きだ :-)

おっと。
仮にテルミットでも何でも、焼夷製の物質が警備をかいくぐって WTC の鉄骨に仕掛けられていたとして。それを仕掛けたのと同じ、あるいは近いフロアを狙って飛行機を突っ込ませて、突っ込んだタイミングに合わせて起爆させるという絶妙な仕掛けが必要になるわけだけれども、そんな器用なことができるものかどうか。

水爆云々に至っては、もうギャグ。そもそも、ちょうど WTC だけを都合良く崩壊させるには、史上最小の核兵器ことデビー・クロケットでもオーバーキル。しかも、それを誰も知らないところで隠密裏に作ってテストして、WTC に持ち込んで仕掛けるなんて、そんな超面倒くさい真似をする必然性はなかろうに。第一、爆発後にガイガーカウンターがガリガリ鳴ってしまう件については、どう取り繕うのかと。


もちろん、陰謀論者は自分の主張を広める目的で陰謀論を振りまいているわけだから、都合の良さそうな話の弾片、もとい断片をかき集めてつなぎ合わせて、「いかにも、もっともらしく聞こえる話」に仕立てようとする。
でも、もともと「結論先にありき」でストーリーをでっち上げているから、きちんと論理的整合性を取ろうとすると、たいてい、どこかで破綻するもの。先程の、鉄骨の強度に関する話を溶融温度の話にすり替えたのが典型例。

だから、とりあえず立ち止まって関連する事柄についてちょいと調べて、その上で結論先行型ではない (これ重要) "常識的な判断" をすれば、たいていの陰謀論にはひっかからずに済むんじゃないか、と。少なくとも「ん、待てよ ?」と思えるのでは ?

そして、論理破綻を指摘されると、それを取り繕う「政府が真実を隠している」とか「この世は闇の勢力に支配されていて」とか「CIA の仕業で」とかいったところに逃げ込むのも毎度恒例。いわば、これらは突っ込まれたときの言い訳用安全弁。だから、「闇の勢力による支配」「政府が真実を隠している」といった類のセリフがついてくるパターンの陰謀論は疑ってかかる方がいいと思う。

そして、その手の陰謀論が悪役に仕立てる相手についても、ある程度パターン化している。だから、誰を悪役に仕立てているかどうか、陰謀論を主張する人の平素の言動がどうか、といった点も、いかれた陰謀論を見抜く際の一つの参考になるかも。

現実問題としては、「陰謀論扱いされていたのが、実は真実だった」という事例もある。たとえば、北朝鮮による拉致事件が典型例。この件に関する社会党/社民党の無様な対応ぶりはしっかりと心に刻みつけておくべきだと思うけれども… と、それはそれとして。
少なくとも、北朝鮮による拉致を主張していた人が、「闇の勢力」とかいう類の荒唐無稽型陰謀論のパターンにはまっていたわけではない点には、くれぐれも留意しておきたいところ。

第一、以前から何度も書いているように、本物の手の込んだ陰謀なら、そんな簡単に見破られるはずがない。国家を長年にわたって裏から操ってきたような強大な闇の勢力とやらが、現場を撮影した荒い画面のビデオを一瞥して「ピカッと光った」「粉塵の舞い上がり方が」「機体がふくらんで見える」とかいう程度であっさり見破られてしまうような、そんな低レベルなドジを踏むものだろうか ?


ついでに余談。

無茶苦茶なところで、「所謂ネット右翼の正体とは、公安関係者である」というウルトラスーパー珍説がある。警視庁公安部がそんなにヒマなわけがないでしょ ?

というか、公安部みたいな人達は対象を隠密裏に監視するのが本筋で、わざわざネット上に出てきて対象とやり合うなんて話を、真面目に信じてしまう方が不自然 (わざわざ相手を警戒させてどおすんの ?)。そんな常識的な判断もできないと、こういう馬鹿げた珍説にコロッと騙されてしまう。

さらに、陰謀論愛好癖と被害妄想と自意識過剰の三連コンボが加速すると、もっと凄まじいトンデモ理論を振りかざす人が出てくるけれど、いちいち取り上げているとキリがないので、今日はこの辺で。

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