Opinion : コピペしかできない人 (2007/10/15)
 

なんだか先週の記事の続きみたいな内容になってしまいそうだけれど、御勘弁。

先日、ログ解析でリファラの一覧を見ていたら、見慣れない URL の blog があったので、いつものように偵察に行ってみた。いわゆる「反戦派」の blog で、以前に書いて賛否両論、毀誉褒貶入り乱れて物議を醸した (?)「防衛産業って戦争でボロ儲けできるの ?」をこき下ろしておった。

私が書いた件の記事では基本的に、「戦時だからといって正面装備の大増産なんてやらない」「今の防衛産業大手は、システム・インテグレーションが主な仕事になっている」の二点を柱にして、「戦争になれば兵器の需要が増えるからボロ儲けするはずだ」という主張に反論している。前者については公開されている調達情報を見れば分かるし、後者については大手各社の IR 資料を引っ張り出した。

ところが問題の blog はというと、「一部の物事だけを見て分かったような気になって云々」といって批判してくれるから、さぞかし強力な反論を聞かせてくれるのかと思ったら、某海外ニュースサイトや反戦系 blog で馴染み深い内容をコピペしたものばかりがズラズラ。しかも、他所のサイトのコピペだけで、blog 主なりの分析や見解というものが出てこないという有様。

もっともこれ、ブロゴスフィアだけじゃなくて mixi の掲示板で議論になったときにも見られる現象みたいだけれど。


現実問題として、コピペだけ、あるいは大量にコピペした後にコメントが 1-2 行だけ、という blog はたくさんある。それを皆無にしろというのは無理な相談だけれども、他人が書いているものを批判・論破しようというのにコピペしかできないって、どうなんだろう。結局のところ、コピペだけでは「自分の言葉」になっていないし、情報の収集・検証・分析も甘くなりがちだから、足元をすくわれかねない。

冒頭でネタにした某 blog でも、例によって例のごとく「Bush 政権は軍産複合体の回し者ばかりで云々」とかいう類の話を意気揚々とコピペしていた。この手の話でもっともメジャーなのは、Dick Cheney 副大統領と Halliburton 社の関係に関するものだと思われる。そこで、ちょっと詳しく書いてみると。

Halliburton 社と米軍の関連というと、実は Halliburton 本体ではなくて、その子会社・KBR (Kellogg Brown & Root Services) が主役。OEF/OIF よりもずっと前、コソボの KFOR あたりから米陸軍の兵站支援を請け負うようになり、例の LOGCAP (Logistics Civil Augmentation Program) で多額の受注を得るようになった。ところが、LOGCAP が同社の独占から他社との競合になって… とかいう話はともかく。

実は、Halliburton は KBR の株式を公開、さらに持株を売却して傘下から切り離してしまった。だから、DefenseNews.com の "Top100" を見ると、2005 年まで上位に顔を出していた Halliburton が 2006 年版で突如として消滅、代わりに KBR が出てきている。Halliburton が KBR を放出してしまったおかげで、「Halliburton は副大統領のコネを使って、戦争を起こさせて巨額の富を云々」なんていっていた人は、ハシゴを外される格好になってしまった。Halliburton は、その「巨額の富の源泉」を自ら放出してしまったのだから。

Halliburton の名前だけは (妙な意味で) 有名になったものの、その詳しい内容やその後の推移をフォローしていないと、未だに「Halliburton のコピペ」が幅をきかすことになる。自分の主張に合いそうなネタを求めてコピペだけしているブロガーは、こういうのに簡単にひっかかる。
「Halliburton のコピペ」を意気揚々と引用したブロガーのうちいったい何人が、具体的な商売の内容やその後の推移までフォローしていただろうか。もっとも、Halliburton が KBR を放出した話、日本でマスコミ種になったことがなかったようだから、その点については同情の余地があるけれど。

ついでに書くと、KBR はなにもイラクで LOGCAP だけやっているわけではなくて、アメリカ本土でハリケーン被災施設の復旧工事を海軍から受注しているし、イギリスでは新型空母の建造計画に首を突っ込んでいる。こんな風にエンジニアリング会社としていろいろやっている話も、日本では知られていないかもしれない。


突き詰めると、コピペしかできない人は何か反論されたときに「自分はこう考える」という反論ができなくて、「誰それはこういっています」という反論しかできないことになる。それって、そもそも反論っていえるんだろうか。それで何かいい返されたら、また都合の良さそうな話を見つけてきてコピペするんだろうか。それって、陰謀論に簡単にひっかかる素地を作っているだけじゃなかろうか。それで「自分はなんでも分かってる」的な態度をとられてもねぇ。

最初に自分なりの話の筋道とか、あるいは仮説があって、それを検証する手段として公開資料や他人が書いたものをあたってみる。その結果としてひとつの流れをまとめて、その際に資料を提示する。というなら話は分かるけれども、いきなり起承転結をすっ飛ばして結論に合いそうな話だけをコピペするのでは、まるで似て非なるものじゃないかと思う次第。

もっとも、コピペだけで済ませるブロガーというのは右にも左にもいるので、この件でモーターなし普通車、じゃなくて左派の人だけを責めるのは筋違い。反論云々の話とは違うけれども、自分だって「福島瑞穂コピペ」にひっかかったことがある。以来、多少は慎重になっているつもりだけれど。

あと、自分が最初から「結論ありき」で書いていて、その結論に合いそうな話を探して飛びつく、というスタイルだと、引用した記事本来の趣旨を見落とす、あるいは歪めるということだってあるかもしれない。これ、先週の記事で書いた話とも通じる部分があるけれども。

その場合、、コピペだけではなくて、都合の良さそうなところだけつまみ食いするとか、元記事の趣旨をトリミングしたり曲解したりとかいうことになる。あと、地政学的・政治的状況を無視して「軍隊のない国」をリストアップするとかいう類の行為も、それと同類じゃないかと思った。

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