Opinion : 再度、武器輸出三原則の話 (2009/5/25)
 

政府・与党が、いわゆる武器輸出三原則の解禁に向けて動き出したという話。日経が報じたところでは、「年末に改定する予定の防衛計画の大綱に、他国との武器の共同開発・生産の容認や、共同開発国への輸出の解禁を盛り込む」とのこと。

なんてニュースが出ると、あの辺とかこの辺から「日本の軍国主義者を加速するものであり、断じて容認できない。ぐんくつの響きがくぁwせdrftgyふじこlp」とかいう声が上がるのはお約束ではあるけれど、もうちょっと冷静に考えてみようじゃないの。


そもそも、戦争反対を主張なさる皆様が、何かにつけて持ち上げるスウェーデンにしろスイスにしろ、あるいはフィンランドにしろ、レッキとした武器輸出国である。「交戦当事国には輸出しない」という自主規制をかけているけれども、輸出した後で相手が交戦を始めてしまったり、抜け穴的に交戦当時国向けの輸出になってしまったとして問題になったり、なんてことは起きている。(例 : スイスからチャドに輸出した練習機が、爆装して対地攻撃機として使われた)

それに、今の日本がまったく「武器輸出」と無縁かといえば、そんなことはない。3 年前の爆笑ネタ「タフブック」(関連記事 1) を初めとする IT 関連製品はいうに及ばず、これまた有名な「ピックアップトラック → テクニカル」の事例だってある。以前にもどこかで書いたような気がするけれど、トヨタ・ランドクルーザーのシャシーを転用して独自の車体を架装して、4x4 装輪装甲車をでっち上げてしまった会社だってある。

昔と比べると民生品と軍用品の境界が曖昧になっている昨今、「武器輸出」とは関係なさそうな製品でも油断できない。たとえば、携帯電話が輸出先で IED の遠隔起爆装置に改造されているかもしれない。日本で Linux のソースコード開発に関わっている人がいれば、それは結果的に Linux を使っている軍用コンピュータに手を貸しているのと同じことになる。特に IT 分野は似たような話だらけになるはず。

露骨に「兵器」と分かるものの輸出を禁じるのは比較的容易だけれども、かような現状では、軍事転用が可能な民生品が一種の「穴」になっている。かといって、そこまで規制の網をかけるのは非現実的な話。

だから、武器輸出三原則が空文化しているとまではいわないにしても、「武器輸出三原則があるから日本は戦争に関わっていない、平和的国家である」なんていう自己満足は成立し得ない。したがって、その武器輸出三原則を金科玉条のように振り回しても、世界平和の役には立たない。

第一、日本だけが規制しても、折り合いが付けば相手構わずに兵器を輸出する国は幾つもある。それに、日本が輸出できそうなジャンルの製品は (ピックアップトラックを除いて) 第三世界の不正規戦には向かない製品ばかりだから、輸出しようがしまいが、やはり紛争をなくす役には立たないといえる。

だからといって、武器輸出三原則を廃止して全面解禁してしまえ、というのも乱暴な話。日本が輸出した製品が紛争に関与しているよりも、しない方がよいのは間違いないのだし。ただ、それで「日本は手を汚していない」と満足してしまうような人に、世界平和がどうとかいってもらいたくないだけ。

仮に輸出を解禁するとしても、少なくともスイス・スウェーデン・フィンランドあたりと同程度のガイドラインは必要で、相手構わず売っていいとは思わない。第一、そんなことをするのは外交的自殺になる。


そもそも、実戦における実績の有無とかオフセットとかいう話を考えると、「解禁する」と「売れる」は別の問題。国際的に見て競争力があって、商談が成立するような製品カテゴリーは、ごく限られるというのが個人的な見方。(関連記事 2 / 関連記事 3)

そんなこんなで、「武器輸出三原則の緩和」といっても、現実的な落としどころは以下のようなものに落ち着くのでは。

  1. 対象国は、アメリカならびに NATO 諸国、あるいはその周辺の同盟国ぐらいに限定する
  2. 筆頭は、装備品の共同開発参画、特定分野における技術供与
  3. その他、競合が少なくて引き合いがありそうな完成品、コンポーネント、素材などの輸出も考えられる
  4. 場合によっては、中古品の輸出もあり。といっても、現実問題としては艦艇や巡視船程度になりそうではある

多分、戦車やその他の AFV、銃器・その他の砲熕兵器、ミサイルといったあたりを欧米のライバル企業に伍して世界市場に売り出すのは、少なくとも短期的には難しいと思うので、そういう話はとりあえずパス。

当座の足枷になっている、共同開発がらみのところとその周辺に限定して緩和するのが、実現性からいっても政治的な面からいっても、もっとも無難な落としどころなのでは。それに、そうやって give and take の関係を作っていくことが、F-22A で問題になっている輸出制限みたいな話の緩和に、ちっとは役に立つかもしれないし。

この件も含めて、戦後長らく続けてきたやり方を改めて「覚悟」を決めなければならない場面、他にもいろいろありそう。

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