Opinion : 使命感と現場の頑張りだけでは防衛産業は守れない (2013/9/23)
 

ずいぶん前に、「防衛産業って戦争でボロ儲けできるの ?」で、「いまどき、戦争だからといって正面装備の急増産なんてことはしないのだから、「戦争になると装備の需要が増えるので、防衛産業がたきつけて戦争を起こさせている」という陰謀論を否定する記事を書いた。

さらに、件の記事について誤解・曲解がいろいろと見られたので、「防衛産業って戦争でボロ儲けできるの ? その後」を書いた。これらの記事で書いたことは、今でも基本的に間違いだとは思っていない。

しつこいけれども、「防衛産業が戦争でボロ儲けするために戦争を起こす」を否定するのと「防衛産業は平素から赤字でお国のために頑張っている」は大違いである。「戦争が起きればボロ儲け」を否定するからといって「平時に利益を出すこと」までは否定しない。

というと語弊がある。「ちゃんと利益を出せる体質・産業構造にしなければ、防衛産業基盤の維持もヘッタクレもない」というべき。「防衛産業は儲かりません。お国のためという使命感でやっています。赤字が出たときには他の事業の黒字で埋めます」なんていってシレッとしているのはおかしい。

そうやって、構造的な問題を現場の頑張りでなんとかしようとするのでは、帝国陸海軍と同じである。そもそも、他の事業の黒字で内部相互補助しないと保たない状況が常態化しているなら、それは自立した産業といえるのか。


要するに、「防衛産業基盤の維持をいうなら、仕事と適正な利益を確保できる仕組みを作らないとダメ」という話。ただし、国民の血税を支出するのだから、ただ単に言い値で国費を支出すればよい、競争入札を止めてすべて随契にすればよい、という話でもない。いわんや、KBR Inc. で問題になったような不正請求・過剰請求なんていうのは、もってのほか。

国費を支出する側からすれば、できるだけ安く済ませたい。しかし、それを受注する側からすれば、しかるべき利益は出せないと事業が成り立たないし、(株式会社なら) 株主に対する責任も果たせない。当然ながら、どちらか一方の言い分だけ聞いていれば喧嘩になるので、互いの言い分をテーブルの上に並べて、落としどころを探る必要がある。

たとえば、PBL (Performance Based Logistics) みたいに、「工数ではなく成果を指標にするとともに、企業努力を促すような仕組みを取り入れることで、経費節減と利益の確保を両立させようと企図する」仕組みがある。そこではもちろん、適正な利益とはどの程度か、というコンセンサスを作る必要がある。

また、成果を指標とするのであれば、目標設定と評価のやり方について双方が納得することが大前提だから、そこでもやはり、落としどころを探る必要がある。これは、いわゆる成果主義人事と同じこと。

そこでどちらか一方の言い分だけを押し通せば、話が壊れる。利益率・目標設定・評価手法についてのコンセンサスができて、それで初めて目論見通りに機能する可能性ができる。

機会の創出ということになると、自国向けだけに商売していたのでは限りがあるので、国際共同開発・共同生産という話が出てくる。NATO 諸国ですら共有化だプール化だ国際共同開発だといっているのに、日本が従前通り、自国向けの需要だけを自国のメーカーだけでやっていて成り立つものだろうか。

なんて書くと、他国の失敗事例を引き合いに出して「国際共同開発なんてダメだ」という人が出てくる。でも、あえて他流試合に打って出て、海外のライバルと競争して揉まれて、そこで勝ち残ってこそ、真の「生き残れる防衛産業」といえるのでは ? 鎖国して護送船団方式をとっても防衛産業は守れないし、強くならない。

とはいえ、日本のメーカー関係者が海外の業界関係者と話をすると「でも、日本のメーカーは実戦経験がないから…」といわれるのが実情。それに、国際共同開発というと、往々にしてトラブルが起きるのも事実。

といったところを敷衍すると、いきなり戦闘機だの艦艇だのと大風呂敷を広げないで、可能なところから、小さなところから実績を作って、まずは認められる存在になることが必要ではないかと思う。とにかく、最初は扉を開くきっかけがないと始まらないのだから。となるとおそらく、軍民両用技術の方が可能性が高い。そして、船頭が多いとモメる元だから、二国間でやる。

そして「とっかかり」ができたら、少しずつ機会を増やして、範囲を広げていく。そうしていくうちに、海外の連中との付き合い方や勘所が分かってくるだろうし、互いに信頼を築き上げることにもなるだろうし。


なにも防衛産業界の話に限らず、新たに仕事のクライアントを開拓しようとするときだって同じでしょ ? いきなり「あれもできます、これもできます、こんなにすごいです」と大風呂敷を広げれば仕事をとれるというものじゃない。

最初はまず、小さなものでもいいから実績を作って、「これなら任せられる」という信頼を得ないと始まらない。

ことに自分みたいにフリーランスの物書き稼業はそう。出版社でもテレビ局でもいいけれど、いきなり乗り込んで大風呂敷を広げて仕事をもらえるものかといえば、そんなわきゃあない。それと同じことではなかろうか。

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